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(2010年2月)
分野 事例 百選
機械 448 37
材料 209 35
化学 333 14
建設 146 20
その他 31 0
合計 1167 106

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事例名称 H-2ロケット8号機打ち上げ失敗
代表図
事例発生日付 1999年11月15日
事例発生地 鹿児島県熊毛郡南種子町大字茎永(種子島)
事例発生場所 宇宙開発事業団種子島宇宙センター
機器 H-2ロケット8号機を図2に示す。第1段エンジン(LE-7)を図3に示す。LE-7エンジンは液体水素ターボポンプと液体酸素ターボポンプをもつ。液体水素ターボポンプはインデューサをもち、インデューサ羽根の材料はチタン合金である。
事例概要 1999年11月15日に、H-2ロケット8号機が種子島宇宙センターから打ち上げられた。打上げの約4分後に第1段エンジン(LE-7)が計画より早く燃焼を急停止し、ロケットは姿勢制御不能となり、墜落した。
2000年1月に小笠原沖の深さ約3000 mの海底からLE-7エンジンを回収し、文部科学省宇宙開発委員会技術評価部会が調査を行い、事故原因を解明した。その結果、設計想定外の振動によって、液体水素ターボポンプのインデューサ羽根の1枚が疲労破壊し、連鎖反応的な破壊によって、ポンプが急停止したことが判明した。
事象 1999年11月15日に、H-2ロケット8号機が種子島宇宙センターから打ち上げられた。打上げの約4分後に第1段エンジン(LE-7)が計画より早く燃焼を急停止し、ロケットは姿勢制御不能となり、墜落した。ロケットの落下予測点を図4に示す。
宇宙開発事業団と海洋科学技術センターの共同による3回の調査航海の結果、2000年1月に小笠原沖の深さ約3000 mの海底からサルベージ作業によりLE-7エンジンを回収した。そして、文部科学省宇宙開発委員会技術評価部会が調査を行い、事故原因を解明した(図5参照)。その結果、設計想定外の振動によって、液体水素ターボポンプのインデューサ羽根の1枚が疲労破壊し、連鎖反応的な破壊によって、ポンプが急停止したことが判明した。
フォールトツリー解析の結果を以下に示す。
○ 図12 破壊形態、破壊のメカニズムとプロセスに着目したフォールトツリー図
チタン合金製の3枚のインデューサ羽根のうちの1枚が、根元近くで大きく欠損していた(図6参照)。この破面の解析の結果、液体水素温度環境において、深さ15μmの加工痕を起点として、繰返し応力によって疲労き裂が半楕円形状で進展し、急速破壊したことが結論された(図7参照)。
また、急速破壊の破面様相が延性破壊に特徴的なディンプル模様(微小空洞の成長と合体)であり、ディンプルの形態から急速破壊は極低温環境で生じたことが判明した。すなわち、急速破壊は墜落後ではなく、墜落前に生じた。
インデューサ羽根には、遠心力による膜応力と曲げ応力が平均応力として作用している(σm =581 MPa)(図8参照)。破面解析の結果から、急速破壊が生ずる応力は、σc=904 MPaである。したがって、繰返し応力を曲げとした応力範囲は、△σ= 647 MPaと推定される。応力範囲を△σ= 647 MPa加工痕の応力集中係数を1.5として解析した結果、疲労き裂発生寿命は破断寿命の1/2と仮定して、Ni = 5.5×10^4〜 1.1×10^5回となった(図9参照)。
破面解析(電子顕微鏡観察)の結果から、小さな応力範囲の10回繰返しごとに、大きな応力範囲(△σ= 647 MPa)の1回繰返しの重畳を示すストライエーション模様が認められる。破面に認められるストライエーション間隔の解析結果から、小さな応力範囲は△σ= 517 MPaと推定される(図10参照)。平均応力に重畳する大小の応力範囲の変動パターンを図11に示す。疲労限度以下の小応力範囲を△σ= 517 MPaとして解析した結果、深さ15μmの加工痕を起点とする疲労き裂進展寿命は、Np = 2.2×10^4 回となった。羽根の固有振動数は約3200 Hzである。これを小応力範囲の繰返し速度とみなす。大応力範囲の繰返し速度は、320Hzとなる。
以上の結果から、大応力範囲の疲労き裂発生寿命(時間)は、171〜342秒となる。小応力範囲の疲労き裂進展寿命(時間)は、6.9秒となる。両者の和は178から349秒となり、打上げからエンジン停止に至るまでの時間である4分(240秒)はこの範囲に入る。
○ 図13 機器の設計と製作における不適切・不良に着目したフォールトツリー図
疲労破壊の起点は、深さ15μmの加工痕であった。これは設計基準の許容範囲内であるが、疲労破壊の起点となった。設計基準の見直しが必要である。
○ 図14 機器の負荷履歴、環境と材料に着目したフォールトツリー図
疲労破壊が生ずるには、2種類の振動源と変動応力(繰返し応力)が必要である。
イベントツリー解析の結果を以下に示す。
○ 図15 振動によるインデューサ羽根の疲労破壊のイベントツリー図
疲労破壊を生ずる振動源と変動応力(繰返し応力)としては、以下の2つが考えられる。
(1) 液体水素タンクの減圧制御に起因する旋回キャビテーションによる変動応力
解析と実験の結果、△σ = 270 MPaが得られた。
(2) 入口圧力変動に伴う羽根の共振による変動応力
解析と実験の結果、△σ = 130 MPaが得られた。
上記(1)と(2)の応力範囲は、個々の値はもちろん、両者の和 400 MPaも、破面解析からの推定値 647 MPa以下である。すなわち、疲労破壊を生じた変動応力の数値は、定量的には解明されなかった。
経過 2000年1月に小笠原沖の深さ約3000 mの海底からLE-7エンジンを回収し、文部科学省宇宙開発委員会技術評価部会が調査を行い、事故原因を解明した。
原因 設計想定外の振動によって、インデューサ羽根の1枚が疲労破壊し、連鎖反応的な液体水素ターボポンプの破壊によって、ポンプが急停止した。
振動源と変動応力の定量的な数値は、完全には究明できなかった。
対処 (1) 異常振動低減化
改良型LE−7Aエンジンでは、旋回キャビテーションの防止を図ると同時に、エンジン燃焼試験による実作動状態を含む広い範囲での変動圧力データを取得し、またインデューサの水流し試験による変動圧力と振動データを取得する。
(2) 疲労解析
インデューサ羽根の設計では、振動による疲労は設計想定外事象であり、疲労解析は実施されていなかった。インデューサのみならず他の重要な部品について、疲労解析を実施するとともに、極低温環境での材料の疲労特性(S−N曲線、き裂進展特性)のデータを取得する必要がある。
(3) 加工痕
インデューサ羽根の疲労破壊の起点となった深さ15μmの加工痕は、設計基準の範囲内であった。インデューサのみならず他の重要な部品について、新たな検査方法の導入も含めて、加工精度と加工痕を改善するために、設計基準を見直す必要がある。
対策 H-2Aロケット(2002年2月4日打上げ)のLE-7Aエンジンには、対処に基づく対策が実行された。
知識化 「想定外事象」
設計では、起こり得る事象を想定し、想定事象に対して対策を構ずる。想定事象と具体的な対策は、設計規格に明示されている場合が多い(公式による設計、design by rule)。設計規格は完全ではあり得ず、また過去に経験のない設計、自由度の高い解析による設計(design by analysis)、流用設計などでは、しばしば想定外事象が事故の原因となる。事故に直結する事象を正確に想定することが、設計者に要求される能力である。
後日談 NASAが与えているチタン合金の液体水素中のS−N曲線は正しくない(図9)。チタン合金は極低温環境で疲労限度がなく、10^7回を超える寿命の超高サイクル疲労の特性を示す。これは最近の物質・材料研究機構の試験結果で実証されている。したがって、S−N曲線を用いた寿命予測において、加工痕の応力集中係数をKt=1.5と高く設定しなくとも、疲労破壊は生ずる。
S−N曲線のデータ採取と加工痕の影響の評価が、今後の課題である。ただし、この問題は、破面解析による変動応力の推定には無関係である。変動応力の推定結果の結論は変わらない。
シナリオ
主シナリオ 無知、知識不足、思い込み、計画・設計、計画不良、設計不良、エンジン、インデューサ羽根、不良現象、熱流体現象、流体現象、流体振動、製作、ハード製作、機械・機器の製造、チタン合金、加工痕、破損、破壊・損傷、疲労、機能不全、ハード不良、エンジン停止、破損、大規模破損、ロケット墜落
情報源 (1)H-2ロケット8号機打上げ失敗の原因究明及び今後の対策について(報告)、文部科学省 宇宙開発委員会 技術評価部会、平成12年5月18日
死者数 0
負傷者数 0
マルチメディアファイル 図2.H-2ロケット8号機
図3.LE-7エンジン
図4.落下予測点
図5.海上でのエンジン引上げ
図6.インデューサ羽根の欠損
図7.インデューサ羽根の疲労破面
図8.インデューサ羽根に作用する応力
図9.チタン合金Ti-5A1-3.5Sn ELIの疲労特性(S-N曲線)
図10.チタン合金の疲労き裂進展特性
図11.平均応力に重畳する大小の応力範囲の変動パターン
図12.破壊形態、破壊のメカニズムとプロセスに着目したフォールトツリー図
図13.機器の設計と製作における不適切・不良に着目したフォールトツリー図
図14.機器の負荷履歴、環境と材料に着目したフォールトツリー図
図15.振動によるインデューサ羽根の疲労破壊のイベントツリー図
分野 材料
データ作成者 小林 英男 (東京工業大学)



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